「CAE技術者と同じでは?」という問いから始めます
FEM(有限要素法)によるシミュレーションを担う専門職として、日本には「CAE技術者」という確立した職能があります。日本機械学会は、その技術力を「上級アナリスト」「1級」「2級」として資格認定しており、多くの優れた技術者がこの分野で活躍しています。
そうすると、当然こういう疑問が生まれます。「数理物理研究所も同じFEM解析をやっているなら、CAE技術者と何が違うのか」。私自身、この問いを正面から受け止めるべきだと考えています。結論から言えば、両者は競合するというより、担当する工程が異なるというのが実態です。
FEMの仕事は「解く前・解く・解いた後」に分かれる
FEM解析の実務は、大きく次の段階に分けられます。
- ①現象を数式にする(定式化):対象の物理現象のうち、何を支配方程式に取り、何を無視するか。複数の物理(熱・流体・電磁気など)をどう連成させるか
- ②モデルを組む(モデル化):形状・境界条件・材料物性・仮定を設定する
- ③解く(離散化・求解):メッシュを切り、ソルバで計算する
- ④結果を見極める(妥当性判断):出てきた数値が物理的に正しいかを判断する
- ⑤判断に翻訳する:解析結果を設計変更やコスト判断へ落とし込む
CAE技術者の資格が主に測るのは、②〜④を、固体力学・熱・流体・振動といった確立された標準領域で正確に回す力です。言い換えれば「きちんと定義された問題を、信頼できる精度で解く」プロフェッショナルであり、その価値の中心は③にあります。これは非常に高度で、価値のある職能です。
一方、数理物理研究所が主戦場にするのは、**①の定式化と、教科書や標準的な解析メニューが存在しない「非標準領域」**です。
数理物理コンサルが引き受ける「非標準領域」と「上流」
具体的には、次の3点が私たちの立ち位置です。
- 非標準領域の定式化力:たとえば半導体クリーンルームの微量汚染(AMC)制御は、気流・化学物質の輸送・反応が絡み合う現象で、既製の解析パッケージにそのまま載せられるものではありません。「何を方程式に取るべきか」を第一原理から組み立てる段階こそが、実は最も難しく、成果を左右します。
- 上流の問題設定:CAE技術者は多くの場合「与えられた問題」を解きます。数理物理研究所は、そもそも何をどう解くべきかを設計するところから関与します。問題を解く前に、問題そのものを定義する仕事です。
- 研究者としての背景:数理物理研究所の代表は、Fermilab(米国フェルミ国立加速器研究所)・SLAC(スタンフォード線形加速器センター)での素粒子物理学研究を通じて、物理モデルをゼロから構築し、計算結果を実験事実と照らして検証する訓練を長年積んできました。
一言でいえば、CAE技術者が「解ける形になった問題を正確に解く」のに対し、数理物理研究所は「現象を、解ける形の数式にする」。解析ツールを開く前の段階が、私たちの専門です。
CAE技術者は「競合」ではなく「協業相手」です
ここで強調したいのは、CAE技術者を下に見る話ではまったくない、ということです。むしろ両者は補完関係にあります。数理物理研究所が第一原理から問題を定式化し、大規模な求解フェーズを経験豊富なCAE技術者に委ねる、あるいは出てきたモデルを物理の観点から妥当性検証する。こうした協業は自然に成立します。
そして、CAE資格という制度が確立していること自体が、「シミュレーションには対価を払う価値がある」と市場が既に理解している証でもあります。私たちはその土台の上で、一段上流と、標準の外にある非標準領域を担う、という位置づけです。
AIが進むほど、「解く前」の価値は上がる
この構図は、以前の記事「AI時代、FEM解析コンサルの価値は減るのか」で述べた考えと地続きです。生成AIやオープンソースツールが③の「解く」コストを下げていくほど、価値の重心は①の定式化と④の妥当性判断、すなわち「解く前」と「解いた後」へと移っていきます。数理物理研究所が上流を主戦場に据えるのは、この変化を見据えた選択でもあります。
ご相談の流れ
「標準的な解析ツールに載せられない現象を扱いたい」「そもそも何を解析すべきかの段階から相談したい」。そうした、定式化や問題設定そのものに難しさがある課題こそ、数理物理研究所の得意とするところです。クリーンルームの空気清浄をはじめ、非標準の物理現象を含むテーマがありましたら、ぜひ一度ご相談ください。